掛け捨ての保険と貯蓄性の保険はどっちがいいの? – アクチュアリーが専門的な視点から解説

掛け捨ての保険と貯蓄性の保険保険選び

保険業界でアクチュアリーとして働いていた筆者が、掛け捨ての保険と貯蓄性の保険のどちらがどういう人にあっているのかについて解説します。

複雑な計算式などは使っていない純粋な読み物ですので、是非お気軽にお読みになって頂ければと思います。

この記事について

この記事を開いていただきありがとうございます。隠居アクチュアリーです。

私が長年生命保険業界で働いていた経験から、みなさまの保険選びに少しでも役立つ情報をご提供したいという思いからこの記事を書かせて頂きました。

この記事は年代や性別に関係なく、すべての方に役立つ内容となっています。保険について興味が出てきた方、これから保険を選ぼうと考えている方、今まさに保険の勧誘を受けている方など、保険を検討される方すべてに読んで頂きたい内容となっています。

掛け捨ての保険と貯蓄性の保険の違い

皆さんは掛け捨ての保険と貯蓄性の保険と聞いて違いがおわかりになりますでしょうか?

色々な考え方はあるかと思いますが、このサイトでは掛け捨ての保険と貯蓄性の保険について以下のように定義しています。

  • 掛け捨ての保険:心配していることが起こったときしかお金がもらえない保険
  • 貯蓄性保険:心配していることが起こらなかったときもお金がもらえる保険

心配していることとは病気やケガ、死亡などの保険で保障されるもののことです。

言い換えると、お金を貯める役割は持っていないのが掛け捨ての保険で、お金を貯める役割を持っているのが貯蓄性保険、ということになります。ですので、掛け捨ての保険を選んだ人が貯蓄性保険を選んだ人と同じくらいお金を増やすためには、自分で資産を運用する必要があります。銀行に預けていただけではほとんど増えませんからね。

なお、掛け捨ての保険と貯蓄性保険の分類について、もう少し詳しくお知りになりたい方はこちらの記事をご覧ください。

貯蓄性の保険の不要論について

この記事を書こうと思った動機でもありますが、巷にあふれる投資系インフルエンサーの方やお金に関する情報を発信しているYoutuberの方、そして著名人が口々に保険不要論、特に貯蓄性の保険の不要論を唱えているためです。

保障と投資はわけるべきだ、保険は手数料(≒付加保険料)がどれくらい含まれているかわからないから投資商品としては不透明だ、という主張は私も一部賛成するところではあります。

しかし実際保険のマーケットを見てみると、貯蓄性保険はかなり売れています。ということは貯蓄性保険を購入した人は等しく愚かなのでしょうか?そんなことはないはずです。

貯蓄性保険が合っている人もいるはずですし、貯蓄性の保険に入って満足されている方もいらっしゃいます。

それではどういう人に貯蓄性の保険が合っていて、どういう人には掛け捨ての保険が合っているのでしょうか。

結局私にはどっちが合っているの?

結論としては、

資産運用を頑張るよりも仕事などの他のことを頑張る方が自分の人生が豊かになると感じられる人には、貯蓄性の保険が合っている

と言えます。

また裏を返すと、

仕事などを頑張るよりも資産運用を頑張る方が自分の人生が豊かになると感じられる人には、掛け捨ての保険が合っている

とも言うことができます。

これはどういうことかと言うと、金銭面だけで考えるべきではないということです。

人生が豊かになるというのは、人それぞれの価値観によるところで、もちろんお金がたくさん手に入ることも豊かさの1つの重要な要素かもしれませんが、お金がすべてではないと思います。仕事仲間との人間関係であったり、趣味に打ち込むのも人生を豊かにする要素かもしれません。

またお金のことを心配するとそれだけでストレスだという人もいるでしょう。資産運用をすると毎日相場が気になってしまい、株価や為替の動きを見ては一喜一憂し、精神的に疲れてしまう人もいます。そういう人は資産運用をすることでむしろ人生の豊かさを損なってしまうかもしれません。

こんな人は将来のお金の心配はぜんぶ保険会社に預けて忘れてしまう、という選択もありだと思います。その分手数料は取られているのかもしれませんが、じぶんの納得した金額でじぶんの人生をもっと豊かにすることに、時間や余ったお金を使うことができるということは幸せなことだと思います。

金銭面だけで考えると?

とはいえ、うえのような金銭面以外の議論を含めると、豊かさなどは定量的に評価できないので判断できないという方もいらっしゃるかもしれません。

わかりやすいようにお金で測れる部分だけを取り出して考えてみましょう。この場合最初の基準は

資産運用を頑張るよりも仕事などの他のことを頑張る方がお金を稼げる人には、貯蓄性保険が合っている

というように言い換えることができます。

この条件にじぶんが当てはまっているかどうかを考えるためには「仕事にかける時間を減らしたときにどれくらい収入が下がるのか」を考える必要があります。評価などに数年にわたって影響する場合は、影響する年数なども考慮に入れた方が良いかもしれません。

例えば極端なケースだと、多少サボっていても年功序列で収入は上がり、余程のことがない限り収入が下がることはない、といった方はこれ以上仕事に時間をかける金銭的な意味はあまりないですね。仕事はほどほどにして資産運用にチャレンジしてみても良いかもしれません。

逆に、例えば営業マンの方で見込み客がたくさんいて、時間がある限りお客さんのところを回り、回っただけ契約を取れてそれがボーナスで返ってくる、といった方は仕事にかけた時間と収入が大きく関係しているでしょう。

そういった方は仕事に時間をかける金銭的な意味がありますので、仕事から資産運用に回した時間で、仕事以上に稼げないと、資産運用を頑張る意味はないということになります。

つまり仕事に割く時間を削った分資産運用を頑張ることで仕事よりもお金が稼げるか、ということが資産運用を頑張るかどうかの判断基準になります。

そして資産運用を頑張ることでお金が稼げるかどうかは、投資に回せる時間とお金がどれくらいなのかに依りますが、重要なのはお金の方です。極端な場合、貯金が現在まったくなく毎月数万円程度しか投資に回すお金の余裕がない状態であれば、いくら時間をかけても投資で大きくお金を増やすことは難しいです。投資で一定程度お金を増やすにはそれ相応の元手が必要だからです。

ひとつ具体例を考えてみましょう。

投資に回せるお金がどれくらいあるのかについて、皆さんも具体例を見ながら一緒に考えてみてください。まず、いまの貯金額と収入のうち毎月貯金に回せる金額、そして生活防衛資金を考える必要があります。

生活防衛資金とは、何か予期せぬ出費が発生したときに必要になるお金です。これは既に保険に入っているかにもよりますが、一般的には世帯の人数×100万円くらいは現金で持っておいた方が良いと言われています。そうしますと4人家族であれば400万円以上の貯金があってはじめて投資を始めることができるということになります。

そのうえでその400万円を超える部分と、毎月のお給料から投資に回せる部分とで、年間の平均の投資残高を計算してみましょう。

例えば年始に600万円の貯金があったら、生活防衛資金の400万円を引いて年始の投資残高が200万円です。さらに毎月5万円を投資に回せるのであれば、年末の投資残高が260万円になります。この場合の平均の投資残高は230万円ですね。この230万円に対してうまくいったときの投資の利回りをかけます。

あなたが投資未経験であれば、10%増えればかなりうまくいっていると考えて良いです。10%だとすると年間で23万円増える計算になりますが、実際は税金を取られるので8%くらいの利回りになってしまいます。このため手残りは18.4万円です。

考え方にもよりますが、年間18.4万円であれば残業代でひと月平均15,000円分くらい稼げば達成できる金額です。そのため、残業時間を削ってまで投資をやる意味はあまりないかもしれません。しかも10%の利回りを狙おうとするとお金が逆に減るリスクもあります。なおさらいますぐに投資を頑張る必要はないでしょう。

貯蓄性保険か掛け捨ての保険かを判断する計算式

ではどういった条件であれば投資を頑張る意味があるのでしょうか。

上記のように貯金額やあなたの年収から逆算できます。

なお、投資を頑張る意味のある人は貯蓄性保険を買うよりも掛け捨ての保険を買って差額を自分で投資した方が良い、という文脈でこの話をしています。

① 投資を頑張って稼げる金額 = 投資に回せる金額(= 年間の平均の投資残高)× 利回り

② 投資に割いた時間分減った給料 = 投資に割く時間 × あなたが仕事で稼げる時給

基本的に「① 投資を頑張って稼げる金額」が「② 投資に割いた時間分減った給料」を上回っている人は、金銭的なことだけを考えた場合に(投資を頑張ることによるストレスなどは抜きにして)投資を頑張る意味があります。特に「投資に割いた時間分減った給料」については、残業代が払われる方は残業代の時給をベースに考えるとわかりやすいです。

例えば年平均で1,000万円を投資に回せるとします。あなたの時給が2,000円だとして週1時間を投資の勉強や証券口座の開設などに割くとすると年間50時間が投資に割く時間です。で10万円分が実質的に減った給料となります。

この10万円を投資で取り返すには1%の利回りがあれば良いです。これくらいの利回りであれば現実的ですので、投資を始める価値があるかもしれません。

また、投資が楽しくて趣味のようなものだ、という方や管理職なので早めに上がっても給料がそこまで変わらない、という方は「② 投資に割いた時間分減った給料」がかなり下がりますのでやはり投資をやるメリットはあるでしょう。

こういう方は自分で投資を始めて保険は掛け捨てのもので保険料を抑えた方が良いということになります。

逆に上の計算式で「② 投資に割いた時間分減った給料」が「① 投資を頑張って稼げる金額」を上回っている人はまだ投資をやるには早いでしょう。貯蓄性の保険を検討することも選択肢のひとつです。

貯蓄性保険を買う決断をするときの注意点

しかし、ここで注意したいのは一度保険を選んでしまうと10年くらいは投資に鞍替えできないということです。

いまはまだ「② 投資に割いた時間分減った給料」が「① 投資を頑張って稼げる金額」を上回っていても、将来お金を貯めていくと①を②が上回ることがあるかもしれません。そのため、今の時点で保険を選んでしまうと、定期的にお金が保険料として出て行ってしまうので、投資に回せるお金がいつまで経っても貯まらないということに注意が必要です。

このため、貯蓄性の保険に入るときは「自分は今だけでなく将来も投資をやらないんだ」と強く思えるかどうかが判断基準になります。

投資などをせずにいまお金を使って楽しめることがあることや打ち込める仕事や趣味があることは幸せなことです。医療費や老後の備えなどの心配は毎月の保険料で全部保険会社に預けて、残ったお金と時間をすべて仕事や好きなことに使うという選択をした貯蓄保険の購入者は、幸福度の高い人たちなのかもしれません。

まとめ

貯蓄性保険を購入している人は幸福な人たちである。

その他の保険に関する読み物として以下のような記事もありますので、もしお時間がありましたら読んでみて頂けると嬉しいです。

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