付加保険料ってなに? – 定義から計算方法までをわかりやすく解説

保険数理

保険業界でアクチュアリーとして働いていた筆者が、生命保険の保険料の構成要素のひとつである付加保険料についてわかりやすく解説しています。

もうひとつの構成要素である純保険料とともに保険料を考えるうえでとても大切な概念ですので、純保険料について解説している記事と併せてこの記事をお読み頂ければと思います。

これまでのおさらい

付加保険料が何かについては、純保険料が何かがわかっていると早く理解することができます。純保険料が何か、そしてどのように計算するのかについては以下の記事でわかりやすく解説しています。まだお読みになっていない方はこちらも是非読んでみてください。

~計算の準備~

まず始めに、タイトルにあるとおり付加保険料とは何かについて解説します。

保険料は保険会社に集められた後に何に使われる予定なのかに応じて大きく2つの構成要素に分けることができます。この2つを専門用語で純保険料と付加保険料と呼びます。つまり常に以下の計算式が成り立ちます。

$$ \begin{align*} \require{enclose} \enclose{roundedbox}[mathcolor=#ff9999] {\color{black}{ 純保険料 + 付加保険料 = 保険料 }} \end{align*} $$

上記のとおり保険料を使われ方によって分類しますので、付加保険料を理解するには実際のお金の動きを想像するとわかりやすいです。保険料は保険会社に集められたあと、何に使われるのでしょうか?

保険料の構成要素①

まず1つ目は保険金の支払に使われる部分です。保険料の構成要素のうち保険金の支払いに充てられる部分を純保険料と呼びます。

本記事は付加保険料について解説することが目的ですのでここでは詳しい解説は割愛します。純保険料については上のおさらいで紹介している記事で詳しく解説していますので、ご興味のある方はそちらも是非ご覧ください。

保険料の構成要素②

次に2つ目は事業費に使われる部分です。ただ純保険料と同様、ここまで説明を簡単にしてしまうと実態が見えず計算式が立てられませんので、もう少しきちんと考えてみます。

保険を販売した時点で、保険会社は将来の事業費がいつどのように発生するのかについて正確にはわかりません。しかし、過去に事業費がどれくらいかかったかについてはわかりますので、それをいくつかの分類にわけて分析をしています。

事業費は人件費や会社のビルの賃料など誰に払われたかによって分類することもありますが、保険会社は何に使われたかに注目して分析することが多いです。特に付加保険料を計算するためには、主に3つにわけることが一般的です。

1つ目は保険の販売にかかったお金である新契約費です。保険販売員への募集手数料や募集代理店への販売手数料、広告宣伝費、引受査定や契約者情報の登録などに関係するコストなどが該当します。

2つ目は保険料を集めるためにかかったお金である集金費です。保険料を集めるために集金する人がいるならその人の人件費、銀行振込やカードなどで自動引き落としにしている場合は、銀行やカード会社への手数料やそれを自動化するシステムを構築・運用するコストなどがあるかもしれません。

3つ目は保険を維持するためにかかったお金である維持費です。契約者の情報を管理するシステムを構築・運用するコストや保険金を支払うときの事務コスト、本社ビルに関係するコストなど多岐にわたります。

もちろんすべての事業費がこの3つにきれいにわかれるわけではありません。保険の販売もしながら集金も行っているような人がいれば、かかった時間などから人件費を新契約費が70%で集金費が30%というようにわけて、それぞれにいくらずつかかったのかを計算します。それが付加保険料の計算のもとになるわけです。

このように分類した過去の新契約費、集金費、維持費を参考に将来かかる事業費を計算して保険料の計算に反映させます。この将来かかる事業費を専門用語で予定事業費と呼びます。

付加保険料と事業費の関係

また、付加保険料を計算する上でもっと正確には、この3つの費用をいつ、何に比例して発生するかを考えて予定事業費率というものを計算します。例えば集金費は保険料を集めるときにかかるコストなので保険料に比例してかかるとしよう、というイメージです。またこの場合、コストがかかるタイミングも保険料を集めるときになりますので保険料払込期間中だけかかるものとして計算します。

予定事業費率についてはさまざまなパターンがあり、ここですべてを解説すると長くなりすぎるため、以下の記事で別途わかりやすく解説をしています。ご興味のある方はこちらの記事もご覧ください。

また、付加保険料の計算では純保険料と同様に、上記に加えて資産運用の影響も考慮します。新契約費は最初にかかってしまうので運用できませんが、他の部分は使うまでに時間があるため、その間少しでも運用でお金を増やせれば、その分保険料を安くすることができます。

つまり保険料の2つ目の構成要素についての正確な説明は、事業費の支払の予想金額に運用の利回りの予想を考慮して計算される金額であり、一般的には新契約費と集金費、そして維持費によって構成される金額ということになります。この部分が付加保険料と呼ばれるものです。

付加保険料の計算の前提

さて、具体的な計算ですが、上記のとおり付加保険料は純保険料と合わせて保険料になりますので、付加保険料の金額を求めるためには保険料から純保険料引くことで求めることができます。

もちろん本質的には予定事業費率をどのように決めるのか、ということが付加保険料の金額を決める上では重要なのですが、本記事では付加保険料がなにかを理解することが目的ですので、予定事業費の決め方については、また別の記事で取り扱います。

計算の前提は、これまでの計算結果を流用しますので、保険金額は100万円、利回りは年間5%とします。死亡については死亡者数を一定の場合と死亡率一定の場合で大きな違いはありませんので、死亡率2%の場合のみ計算します。最後に事業費は保険金額に比例する部分(新契約費)は最初だけ1%、保険料に比例する部分を3%とします。維持費は簡単のためゼロとしています。

付加保険料の計算例①:保険期間1年の死亡定期保険

まず保険期間1年の死亡定期保険の付加保険料を求めます。

計算に使用する保険料純保険料は以下の記事で計算しています。このため、この記事でやるべき計算はその引き算です。

計算結果をまとめると以下の表のようになります。

  保険料  純保険料  付加保険料
29,94619,04810,898
表1:保険料のうちわけの例(保険期間1年の例)

念のため、付加保険料を独立に計算してみましょう。保険金比例の事業費は保険金100万円に対して1%、保険料比例の事業費は保険料に対し3%ですので計算式は以下のとおりになります。

$$ \begin{align*} \mbox{100万円×1% + 29,946円×3%} &= \mbox{10,000円 + 898円} \\ &= \mbox{10,898円} \end{align*} $$

一致することが確認できました。なお、保険料が計算に使われていますので、保険料比例の事業費がある限り、常に付加保険料よりも保険料を先に求める必要があります。このため、実務においては付加保険料が上記のように独立に計算されることはほとんどありません。

純保険料の計算例②:保険期間2年の死亡定期保険

次に保険期間2年の死亡定期保険の例を考えてみましょう。

計算に使用する保険料純保険料は、右の文字をクリックして飛ぶことができる記事の保険期間2年の場合の計算例をご参照ください。引き算して得られた付加保険料は以下のとおりです。

保険料 純保険料 付加保険料
24,96919,0485,921
表2:保険料のうちわけの例(保険期間2年の例)

保険期間1年の例と同様に、付加保険料を独立に計算してみましょう。

$$ \begin{align*} \mbox{(100万円 × 1% + 24,969円 × 1.93人 ×3%)÷ 1.93人 = 5,921円} \end{align*} $$

1.93人は2年間で保険料を集めることができる現在価値を考慮した延人数です。専門用語で年金現価と呼ばれます。最初の人数を1人としているのでわかりにくいですが、初年度の1人と2年目の0.98人を1.05で割って0.93333となりますので、合計で約1.93人から保険料を集めることができることを意味しています。そしてこうして求めた事業費の総額はやはり保険料を払う1.93人で負担することになりますので最後に1.93で割っています。

と上記のとおり付加保険料は通常独立には計算しませんので、こういった計算をしたことがあるアクチュアリーは少ないと思います。私も正直この記事を書くにあたり初めてこの方法で再計算しましたが、付加保険料に対する理解が深まりました。

純保険料の計算例③:保険期間10年の死亡定期保険

最後に保険期間が10年の場合を考えてみましょう。

計算に使用する保険料純保険料は、右の文字をクリックして飛ぶことができる記事の保険期間10年の場合の計算例をご参照ください。引き算して得られた付加保険料は以下のとおりです。

保険料 純保険料 付加保険料
21,01619,0481,968
表3:保険料のうちわけの例(保険期間10年の例)

上記の例と同様に、付加保険料を独立に計算してみましょう。

$$ \begin{align*} \mbox{(100万円 × 1% + 21,016円 × 7.48人 ×3%)÷ 1.93人 = 1,968円 } \end{align*} $$

7.48人は10年間で保険料を集めることができる現在価値を考慮した延人数です。計算式は以下のとおりです。

$$ \begin{align*} 1 + \frac{0.98}{1.05} + \frac{0.98^2}{1.05^2} + ・・・ + \frac{0.98^8}{1.05^8} + \frac{0.98^9}{1.05^9} \end{align*} $$

分子は毎年始の生存者数を表しており、保険料を集めることができる人数を表しています。分母は現在価値への調整です。お金の価値を契約時点に揃えるために保険料を集めるタイミングに応じて1.05の階乗で割っています。考え方は保険期間2年の例で解説したとおりです。

(参考)保険期間が3年から9年の場合

ご参考までに保険期間が1年から10年まで、上記の前提で純保険料を計算したものを表にしてみました。また参考として、エクセルなどでも簡単に再現できるかと思いますので、ご興味のある方は是非再計算してみてください!

保険期間 保険料 純保険料 付加保険料
129,94619,04810,898
224,96919,0485,921
323,31319,0484,265
422,48719,0483,439
521,99219,0482,945
621,66419,0482,617
721,43119,0482,383
821,25719,0482,209
921,12319,0482,075
1021,01619,0481,968
表4:保険期間と保険料のうちわけの関係

最初にしかかからない保険金比例の事業費が保険期間が長くなるほど平準化されていきますので、付加保険料は保険期間が長くなるほど小さい金額になっていることがわかります。

まとめ

今回の記事では「付加保険料ってなに?」と題して、死亡定期保険の純保険料について考え方と計算方法を解説していきました。実は付加保険料は保険料がおトクかどうかを判断する1つの指標でもありますので、そのあたりについてもおいおい記事にしていきたいと思います。

それではまたお会いできることを楽しみにしています。

【参考文献】

アクチュアリー試験、1次試験指定テキスト:二見隆著、生命保険数学<上巻>及び<下巻>
アクチュアリー試験、2次試験指定テキスト:保険1(生命保険)及び保険2(生命保険)

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