結論
まず結論です。
長年保険に携わってきて、保険に入った後で後悔してしまう人の共通点は以下の3つです。時間がない人はこれだけ覚えて帰って頂いて大丈夫です。
- その①:給付金のもらいやすさを考える。
- その②:業界初、新発売に飛びつく。
- その③:ひとりからしか話を聞かない。
時間のある方はこれ以降で簡単に解説をしていますので読んで頂ければ幸いです。
この記事について
結論をお読みになった上でスクロールをして頂きましてありがとうございます。隠居アクチュアリーと申します。
私が長年生命保険業界働いていた経験から、みなさまの保険選びに少しでも役立つ情報をご提供したいという思いからこの記事を書かせて頂きました。
この記事は年代や性別に関係なく、すべての方に役に立つ内容となっています。
保険について興味が出てきた方、これから保険を選ぼうと考えている方、今まさに保険の勧誘を受けている方など、保険を検討されているすべての方を対象としています。
保険を選ぶときの心がまえ
本題の保険の選び方ですが「保険選び」などという言葉で検索するとたくさんの保険会社や保険代理店のページを見つけることができます。
そこにはよくこんなことが書いてあります。
「性別や年齢によって必要な保険が変わるので、同じ性別や年齢の人がどのような保険に加入しているのか確認しましょう。」
「結婚や出産、退職などのライフステージによっても必要な保険は変わりますので、家族の状況を考慮して保険を選びましょう。」
これについては間違ってはいないのですが、「保険選び」という観点ではいくつかの重要な点が抜け落ちています。
それはずばり結論で述べた3点であるわけですが、この3点が抜け落ちているのはある意味で当然と言えます。
なぜなら保険について話をする人の多くは保険を売りたい人だからです。
自分が保険を販売しにくくなるようなことは言わないのが自然でしょう。
このことを踏まえて以下の3点を一緒に見ていきましょう。
給付金のもらいやすさを考える
保険を選ぶときに「掛け捨ては嫌だ」という方をよくお見掛けします。
掛け捨ての保険の場合、保険の期間が終わるまで結局何もなかった場合、保険料はぜんぶ保険会社に払ったきり戻ってきません。
実際はあなたの保険料は誰か別の方の保険金として支払われていたり、保険会社の運営に使われていたりするわけですが、自分に戻ってこないのは何だか損をしている気がする気持ちはよくわかります。
ひと昔前はこういう方は生死に関係なくお金が戻ってくる養老保険などの商品に加入する傾向があありました。
しかし最近は資産形成は自分で保険とわけて考えるという方も増えてきており、掛け捨てが嫌だから貯蓄性商品を買うという人は以前より少なくなってきた気がします。
その代わりに増えてきたのが、保険金や給付金がもらえる可能性が高そうな商品を選ぶ人です。
例えば以下のような考え方をお持ちの方は要注意です。
- がん保険は上皮内がんが保障に入っている方が良い
- 医療保険は入院や手術だけでなく通院も保障される方が良い
- 特定疾病保険や保険料免除特約は3大疾病よりも7大疾病、8大疾病が保障される方が良い
もちろん、保障の範囲を広げれば保険金や給付金をもらえる確率は上がります。また、その分掛け捨てになってしまう確率は減ります。
しかしもちろんその分保険料は増えています。
ではもらえる確率が10%上がったら保険料はちょうど10%増えているのでしょうか。
実はそうとは全く限りません。
例えばあなたがある保障を追加したことで10%でだけ給付金をもらえる確率が上がったとします。
保障を追加する前の保険料は月払で1,000円だったとしましょう。
この場合追加した後の保険料が1,100円くらいになることを期待してくれるならあなたは保険会社にとってとても良いお客さまです。
これは保険料の構成要素を考えてみればすぐにわかります。
保険料が1,000円の掛捨保険なのであれば、標準的には付加保険料は30%程度でしょう。なので純保険料が700円、付加保険料が300円くらいなのが妥当なラインです。
そして純保険料には保険会社の支払差益が含まれていますから、それが25%ちょっとくらいとすると500円くらいが給付金のために実際に使われるお金でしょう。
給付金額が20万円の入院保険だとすれば発生率は1月あたり0.25%ですね。年間3%なので国民平均だと40~50歳の男性の入院発生率くらいでしょうか。
さて、この条件でもらえる可能性が10%上がりますので、この年間3%が3.3%になるわけです。20万円もらえる確率が0.3%上がりますので、年間600円保険料が増えることになりますね。
これを月払に直すと月50円です。つまり追加の保障に対するコストだけを考えると1,050円くらいが妥当ということになります。
しかし保障を追加したことで、追加されるコストは追加の保障に対するコストだけでありません。この分契約時に追加のご説明が必要になりますし、支払事務が増えるでしょう。またシステムの開発費や決算などの事務、リスク管理のためのコストなどがすべての契約の保険料に保険料にちょっとずつ上乗せされていきます。
そうしますと、まぁ1,100円くらいを保険料として徴収するのは保険会社としては合理性があるわけですが、契約者からすると追加の保障に対するコスト以外は正直関係ないと考える人がほとんどなのではないでしょうか。
本当に必要な保障なのであれば、その保障を長期間にわたって提供してくれるのは保険会社だけですので、そういった安心を購入するという意味でも、契約者にとって保障以外のコストを負担する合理性があるでしょう。
しかし、もらえる確率を上げるために追加した保障についてもその合理性があるでしょうか。
保険に加入するときはこの部分についてよく考え、本当に必要な保障のみを購入することを検討した方が良いでしょう。
業界初、新発売に飛びつく
他の業界、例えば車や家電、ゲームや携帯電話などでは「業界初」「新発売」という言葉はとても魅力的に映ります。
しかし保険についてはこれらの言葉は多少慎重に受け止めた方が良いでしょう。
なぜなら保険業界の「初めて」とその他の業界の「初めて」は初めての度合いが異なるからです。
例えば家電やゲームで「初めて」と言われても、それは私たち消費者にとっては「こういう商品を待ってました!」というケースがほとんどではないかと思います。
しかし保険で「初めて」というのときに、「こういう保険を待ってました!」というケースは極めて珍しいでしょう。
もしそういった待ちに待ったものが本当に発売されたのなら検討に値しますが、多くの場合は一般の商品者にとってはよくわからないものだと思います。
そして重要なことはこのよくわからないということは程度の差こそあれ、保険会社にとっても同じであるということです。
保険会社は様々な統計や論文などのデータを用いて保険料を計算しています。しかし、今までにない商品には対応する統計や論文がないことも多く、保険料の計算は困難を極めます。
統計や論文は多くの場合、国民全体や特定の地域に住んでいる方、特定の組織に所属している方を対象としており、保険に入る人たちとはかなり性質が違います。
またデータによってはサンプル数が少なかったり、年齢別になっていなかったり、保障したい病気と定義がまったく同じでなかったりなどとそのまま使えることは極めて稀です。
ではこういった場合にどのように保険料を計算するかというと、安全割増を入れて計算するということになります。
安全割増とは例えば「この論文では発生率は1%と書いてあるけど、サンプルが少ないし保険料を計算するときは1.3%にしよう」ということです。
この例では発生率が1.3倍となり、結果として純保険料が1.3倍になるのですが、保険会社からすればこれは至極当然の処置です。
統計学的に完全に信頼できないデータというのは上にも下にもブレますので、そのまま信じると結果として保険料が足りなくなる恐れがあります。
しかし、一般消費者にとってはどうでしょうか。
もしこういった実務を知っていれば、そこまでの高い保険料を払ってまで入りたい保険かどうかを保険に入るかどうかの判断に入れることができるかもしれません。
また販売開始してから5年から10年くらいすると、保険会社としても実際に保険金の支払実績がどうだったのかがわかってきます。
保険会社が自信を持って保険料を計算できるのはそれからですから、今すぐ必要でなければ何年か健康を維持して保険料が改定されるのを待っても良いかもしれません。
ひとりからしか話を聞かない。
これも非常に重要なポイントです。
普段慣れない保険の話を聞くのって疲れますよね。
契約に関する難しい言葉やあまり考えたくない病気やケガ、生死に関する事柄などについて考えるだけでもとても大変です。
こういった中でよくある起こりがちなのが「ここまで親身になってくれたからこの人の勧める商品に加入しよう」、「また始めから話を聞くのは大変だからこの人の勧める商品に加入して終わりにしよう」と考えてしまい、ひとりからしか話を聞かずに契約をしてしまうことです。
まず当然ですが、あなたと偶然出会った保険の販売員が本当にあなたに合った保険を取り扱っているとは限りません。
保険の募集人は自分が契約しているか所属している会社の商品しか販売できませんから、あなたに合った商品を取り扱っていなければそれを検討することもできません。
また、あなたに合った商品を取り扱っていたとしても、募集人の知識や経験によってはそれをきちんとお勧めしてくれるかはわかりません。募集人も人間ですからあなたのニーズをちゃんと把握できないこともあるでしょう。
またこれは仕方のないことですが、保険を売っている人には自分が売りたいと思っている商品がある場合があります。新商品の販売直後やテコ入れしたい商品の改定直後などは募集人も商品のことを学ぶなど努力が必要ということもあり、募集手数料が上乗せされていることも珍しくありません。
こういったキャンペーンのようなものは保険以外でも通常行われているものであり、それ自体が悪いことではありません。しかしそういった一時的に手数料が上乗せされているような商品が本当にあなたに必要かはわかりません。
もらえる手数料が高いからといった契約者と関係のない理由で、募集人が売りたい商品を売ることは望ましくないことです。
しかしながら保険を売っている人はその販売手数料をお給料としてもらっているわけですので、手数料の高い商品をたくさん売りたいと考えるのは寧ろ自然だと考えておくのが無難かもしれません。
実際にそういったことがなくても慎重に考えることができるため損はないでしょう。
もちろんこういったことについては当局が規制を設けて防止策を講じてはいますが、いち消費者としてはそういったこともあり得ると考えておいた方が良いと思います。
このようなことから保険を買うときはできるだけ多くの人から話を聞くことをお勧めします。
まとめ
この記事を参考に読者の皆さんが保険で後悔しないことを願っています。
あとがき:筆者について
私は保険業界を引退し数年が経過し、現在は保険会社となんの関係もありません。そのため、私は読者の皆さんに保険を契約してほしいとも契約してほしくないとも思っておりません。とても中立でフェアな立場だとお考え下さい。
またアクチュアリーというのは保険数理に関する専門職です。保険になじみのない方にもわかりやすい表現をすると保険料を計算したり、保険から得られる儲けを計算したり、保険の持つリスクを計算している人たちです。その他にもたくさんの仕事がありますが、この記事をお読みになるうえではそれくらいをまず知っておいて頂けると嬉しいです。
このため、アクチュアリーは商品性などと保険料などを見て、この商品は保険会社に損が出そうだぞ、ということがわかったります。損が出るということはすごく簡単に言うと契約者が儲かる商品ということです。
このサイトは保険会社に損をさせることが目的ではありませんので、そういった情報をむやみに書いたりはしませんが、それくらい保険の商品に詳しい人なんだとご理解ください。
アクチュアリーがあまりにも知名度が低いですので、手前味噌で恐縮ですが記事の信憑性を感じて頂くために最後にアクチュアリーという仕事を紹介させて頂きました。
それではまた別の記事でお会いしましょう。
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